2026年2月16日、環境省から「第三次気候変動影響評価報告書(2025年度版)」(以下、報告書)が公表されました。この報告書は、気候変動適応法に基づいて作成されたもので、国として気候変動の影響をどのように捉えているのか、その最新の科学的知見がまとめられています。いわば、今後の気候変動適応策の土台となる重要な資料です。
本稿では、報告書の内容をひもときながら、現在わかっている気候変動影響の影響と今後の見通しについて、全体像を見ていきたいと思います。
1.気候変動の影響はどれほど深刻なのか? どれほど急ぐべきなのか?
報告書では、気候変動の影響を次の7つの分野に分けて評価しています。
・農業・林業・水産業
・水環境・水資源
・自然生態系
・自然災害・沿岸域
・健康
・産業・経済活動
・国民生活・都市生活
それぞれの分野に対応した国のワーキンググループが設置され、文献やデータをもとに検討が行われました。そして、現在すでに生じている影響と、将来予測される影響の両方の観点から科学的知見を取りまとめ、各項目の重大性、緊急性、確信度の評価が行われました。
評価における気候変動影響の「重大性」とは、社会・経済・環境にどの程度大きな影響があるのかを示しています。影響の広がりや持続時間、不可逆性(元に戻らないかどうか)や影響の連鎖による他分野への波及などを踏まえて、レベル1~3の3段階で整理されています。
また、「緊急性」とは、追加の適応策をどの程度急いで判断・実施すべきかを評価しています。こちらもレベル1~3の3段階で示されています。
「確信度」とは、評価結果を支える科学的知見の量や質、一致度などを踏まえた“確からしさ”の程度を示したものです。評価分野や項目ごとにばらつきがあることから、その度合いがレベル1~3の3段階で評価されています。

出典)環境省HP 気候変動影響評価報告書 総説(2025年度版)
評価にあたっては、気候変動によって自然的要素がどのように変化し、それがどのようなつながりによって各分野の要素に影響を及ぼすかを詳細に整理するとともに、他の関連分野の要素との関係も考慮しながら検討されています。
気候変動によって、単に「影響がある」と述べるだけでなく、何がどうなることでどのような影響が生じるのか、そしてその影響は「どれくらい深刻か」「どれくらい急ぐべきか」「どれくらい確かなのか」を丁寧に整理している点が、この報告書の大きな特徴といえます。
気候変動により想定される影響の概略図(例:健康分野)

出典)環境省HP 気候変動影響評価報告書 総説(2025年度版)
2.私たちの暮らしを取り巻く、さまざまな影響
報告書には、各分野各項目の評価結果が詳細にまとめられています。
ここではその内容をもとに、生活環境や自然環境を模した簡単なマップ上に評価項目をプロットして全体を眺めてみたいと思います。

出典)環境省HP 気候変動影響評価報告書 総説(2025年度版)の記載内容をもとに作成
全体を眺めてみると、特に重大性・緊急性が高いと評価された項目は、私たちの健康や生活環境、水域を中心とした自然環境、農業を中心とした産業分野に見られます。
私たちの暮らしに直結する健康面では、暑熱による死亡リスクや熱中症、一部の節足動物媒介による感染症などの影響について特に重大性・緊急性が高いと評価されています。一部の節足動物媒介による感染症は、気温の上昇によって蚊やマダニなどの分布域拡大・活動時期の長期化が生じて、人の感染症リスク増加が懸念されています。
また、暮らしを支える生活環境においても、住宅・住居やインフラ・ライフライン等における災害時の内水反乱や避難問題も特に重大性・緊急性が高いと評価されています。全国の建物ストックの約4割が洪水浸水区域内に存在している現状を踏まえ、降水量の変化や海水面の上昇に伴う浸水リスクが指摘されています。
水域を中心とした自然環境では、降水量の激甚化に伴う土砂流出や洪水などのリスクに加えて、生物の分布・個体群の移動も特に重大性・緊急性が高いと評価されています。多くの動植物種で生息域が高緯度・高標高域への移動する現象が見られ、一部では局所的な消失も生じているとされています。
農業を中心とした産業分野では、水稲や果樹栽培、農業生産基盤において、特に重大性・緊急性が高いと評価されています。水稲や果樹栽培については気温上昇等による品質の低下が生じているほか、降水量の変化によって農地の冠水や干ばつリスクが高まり、生産への影響が懸念されています。
いずれもニュースなどで見聞きしてきたないようではありますが、体系的に整理された評価結果を眺めると、気候変動の影響がいかに幅広く、私たちの暮らしに深く関わっているかがあらためて実感されます。
3.影響をやわらげるために、できることを一歩ずつ
2023年に一部更新された国の「気候変動適応計画」では、報告書で評価された7分野ごとに具体的な適応策が示され、到達目標となるKPIも設定されています。
気候変動への対策というと、温室効果ガスの排出削減といった“緩和策”に目が向きがちです。しかし、すでに進行している変化に対応する“適応策”も同じくらい重要です。
目の前のリスクを直視し、被害をできるだけ小さくするための備えを積み重ねていくこと。それが私たちの暮らしと自然を守ることにつながります。
今回の報告書で示された最新の知見が、国や自治体の取り組みはもちろん、私たち一人ひとりの行動にも活かされていくことが期待されます。
気候変動影響と適応策・KPIの例


出典)気候変動適応情報プラットフォームHP 気候変動適応計画(概要)より
参照(2026.2)
環境省 報道発表
https://www.env.go.jp/press/press_02915.html
気候変動適応情報プラットフォーム
https://adaptation-platform.nies.go.jp/government/npcca.html

