グリーンイノベーション技術が描く未来社会

2023年5月に施行された「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」、そして2025年2月に閣議決定した「GX2040ビジョン」を受けて、現在、グリーン・トランスフォーメーション(GX)の取り組みが本格的に進められています。GXは、「排出削減」「経済成長」「エネルギー安定供給」を同時に実現することを目指すものです。その具体策として、10年間で150兆円を超える官民によるGX投資や、排出量取引の義務化など段階的なカーボンプライシングの導入が進められています。温暖化対策と経済政策とが密接に結びつき、社会全体を“グリーンな成長”へ転換していこうとする動きだといえるでしょう。
具体的な温暖化対策については、必要な技術の普及を後押しするため、グリーンボンドなどを活用したGX投資が今後さらに拡大していくものと考えられます。一方、その基盤となりえる革新的な技術開発を担うのが、2021年から始まった「グリーンイノベーション基金事業」です。
本稿では、このグリーンイノベーション基金事業に注目し、開発が進められている技術の概要や、その社会実装に深く関わるカーボンプライシングの動向について見ていきたいと思います。

1.グリーン成長戦略と、それに基づく技術開発

グリーンイノベーション基金事業(GI基金事業)の背景には、2021年6月に策定された「グリーン成長戦略」があります。この戦略は、温暖化対策と経済成長の同時実現を目指し、14の重点分野で技術的イノベーションを進めていくものです。GI基金事業では、こうした重点分野をカバーする形で、現在(本稿執筆時点)、20件のプロジェクトが採択され、実施されています。

出典)経済産業省HP 第7回グリーンイノベーション戦略推進会議資料

これら20のプロジェクトは、「グリーン電力の普及促進等」「エネルギー構造転換」「産業構造転換」という3つの分野に整理されており、それぞれの分野に、プロジェクトの進捗を確認・評価するためのワーキンググループが設けられています。これまで各プロジェクトで1~3回程度のモニタリングが行われており、野心的な2030年目標に向けて、技術開発は今後も継続していく予定です。

GI基金事業一覧

分野プロジェクト
グリーン電力の普及促進等○洋上風力発電の低コスト化 ○次世代型太陽電池の開発 ○廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現
エネルギー構造転換    【H・NH】 ○大規模水素サプライチェーンの構築 ○再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造 ○製鉄プロセスにおける水素活用 ○燃料アンモニアサプライチェーンの構築 【CO】 ○CO等を用いたプラスチック原料製造技術開発 ○CO等を用いた燃料製造技術開発 ○COを用いたコンクリート等製造技術開発 ○COの分離回収等技術開発
産業構造転換  【輸送】 ○電動車等省エネ化のための車載コンピューティング・シミュレーション技術の開発 ○スマートモビリティ社会の構築 ○次世代航空機の開発 ○次世代船舶の開発 【製造】 ○次世代蓄電池・次世代モーターの開発 ○次世代デジタルインフラの構築 ○製造分野における熱プロセスの脱炭素化 【農林水産・バイオ】 ○食料・農林水産業のCO2等削減・吸収技術の開発 ○バイオものづくり技術によるCO2を直接原料としたカーボンリサイクルの推進

出典)国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)HPより作成

2. GI基金事業から見えてくる未来社会

20のGI基金事業を、私たちの暮らしの流れに沿って眺めてみると、排出削減と経済成長を同時に実現する未来社会の一つの姿が、少しずつ浮かび上がってきます。

GI基金事業におけるプロジェクトの全体像と私たちの暮らし

注)図中の矢印は、プロジェクトで生成・利用される物質(H、NH、CO等)の相互性を示したものであり、実際にプロジェクト間で物質のやり取りが行われるわけではない。

出典)経済産業省HP 各プロジェクトの概要資料を参照して作成

私たちの暮らしを、「各種のエネルギーを取り入れて生産や輸送、通信などの活動を行い、その結果として排出されるCOなどを、資源やエネルギーとして循環利用するサイクル」と捉えると、GI基金事業の各プロジェクトは、その未来の暮らしを形づくる“ピース”を一つひとつ埋めていくような取り組みであることが分かります。
エネルギーに関しては、洋上風力や次世代型太陽電池による電力供給の拡充を土台としながら、水素や燃料アンモニアの製造・利用を含むプロジェクトが数多く進められています。水素や燃料アンモニアが、次世代の革新的なエネルギーとして期待されていることが見て取れます。
またCOについても、火力発電所などからの分離・回収技術の開発に加えて、燃料や化学原料などへ再利用するカーボンリサイクル、さらには農林水産分野での吸収技術の開発など、さまざまな場面で取り組まれています。
再生可能エネルギーによる電力供給を基盤としながら、水素、燃料アンモニア、COなどの物質を社会全体でどのように“回していくか”。そこに、未来社会の大きなポイントがあるといえるのかもしれません。

3. GI技術の社会実装に向けて

GI基金事業で取り組まれているような技術(GI技術)を社会に広く実装していくためには、政策による後押しに加えて、事業者が積極的に取り組めるような社会的インセンティブや、資金融通の仕組みなどが欠かせません。
GX推進法では、一定条件を満たす事業者に対して、温室効果ガス(GHG)の排出量取引を義務化することを定めており、2026年4月から開始される予定です。排出量取引は、GXリーグ、カーボン・クレジット取引市場などを通じて行われますが、その前提となる排出目標や実績については、政府の登録を受けた登録確認機関が確認する仕組みとなっています。排出量取引制度の信頼性を担保するために、確認の仕組みが担う役割はとても重要なものといえるでしょう。

排出量取引制度/登録確認機関制度の概要

出典)経済産業省HP 排出量取引制度の概要を加工して作成

こうした排出量取引や排出実績などの確認制度は、すでにJ-クレジット制度などで多くの運用実績があります。特に、新たに開発された技術によるクレジット化を進めるには、その技術の実施効果をもとに、排出量削減の「方法論」として認証を受ける必要があります。
最近では、GI基金事業における「食料・農林水産業のCO等削減・吸収技術の開発」プロジェクトとも深く関わるバイオ炭の製造・活用について、下水汚泥由来の手法がJ-クレジットの方法論として新たに認証されました。
この取り組みでは、通常は廃棄物として処理される下水汚泥をもとにバイオ炭を製造し、家畜糞尿と混合、堆肥化したものを採草地に散布し、炭素が土壌に貯留されることで、カーボンネガティブを実現します。こうした仕組みが評価され、J-クレジットにおけるバイオ炭の種類・原料の一つとして新たに登録されたのです。

下水汚泥処理からのバイオ炭製造・活用の流れ

出典)C2Xプレスリリース(2025.2.20)

出典)C2Xプレスリリース(2025.2.20)

当該バイオ炭の製造販売を担う事業者では、下水汚泥処理からのカーボンネガティブ実現に向けて、規模のメリットも生かした事業展開を目指しています。
革新的なGI技術を社会に根づかせていくためには、こうしたカーボンプライシングの仕組みを活用しながら、多くの事業者がそれぞれの分野で新たなビジネスを展開していくことが重要です。その積み重ねが技術普及の裾野を広げ、やがて私たちの暮らしの中に、技術に支えられた新しいライフスタイルが定着していくことにつながるのではないかと思います。

Jクレジットを活用した下水汚泥処理からのバイオ炭製造・販売スキーム

出典)三光株式会社 資料

参照(2026.1)

経済産業省 グリーンイノベーション戦略推進会議https://www.meti.go.jp/shingikai/energy_environment/green_innovation/index.html
同 グリーンイノベーション基金https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/gifund
同 GX(グリーン・トランスフォーメーション)https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/index.html
同 排出量取引制度
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ets.html

NEDO グリーンイノベーション基金事業
https://green-innovation.nedo.go.jp

C2X プレスリリース