小都市先行地域にみる脱炭素への挑戦

地域全体を見渡して、地域資源とエネルギーの循環経済を育む ―

これまで本メディアでは、大都市(2025.10.21)、中都市(2025.11.21)と都市規模別に環境省の「脱炭素先行地域(以下、先行地域)」の特徴をご紹介してきました。今回は小都市に目を向け、脱炭素地域形成のポイントを探っていきたいと思います。
2025年9月現在で87件の取り組みが進められており、当初掲げられた“少なくとも100カ所以上”の選定に、いよいよ手が届くところまで来ています(2025年10月には第7回目の募集実施)。先行地域の取り組みを都市規模別に紐解いていくことで、これからの横展開(脱炭素ドミノ)がどのように広がっていくのか、そのヒントが見えてくるかもしれません。

都市区分件数
大都市(政令市)14件
中都市(人口10万人以上。政令市除く)22件
小都市(人口10万人未満。町村除く)27件
町 村22件
都道府県(市町と共同提案)2件

(本稿作成時点)

1.地域の魅力と併せて進める、エネルギーの脱炭素化

小都市が計画提案者となっている先行地域は27件。取り組みタイトルを眺めると、地域ならではの「ブランド」や「特性」を軸にした意欲的な姿勢が浮かび上がります。
米沢市・飯豊町の“米沢牛”、日光市の“奥日光リゾート”、甲斐市の“ワイナリー”、うきは市の“フルーツ王国”、宮古島市の“エコアイランド”など、地域の強みを生かした脱炭素への挑戦がうかがえます。
また、宮古市の“広域合併”、久慈市の“過疎地域”、佐渡市の“離島地域”など、地勢的な特徴を前面に出した都市もあれば、“震災復興”(陸前高田市・東松島市)、“北陸新幹線敦賀開業”(敦賀市)といった都市の在り方に深く関わる契機をとらえて取り組みを進めようとするところもあり、各都市の多彩な個性が見えてきます。
さらに、匝瑳市、飯田市、加西市、五島市、日置市などでは、“ソーラーシェアリング”や“既存配電系統を活用した地域マイクログリッド”、 “地域アグリゲータモデル”など、エネルギーの高度活用を謳う都市も多く見られます。

出典)環境省HP 各先行地域の計画提案書より作成

これらの都市が、地域の持ち味と最新技術を組み合わせながら、どんな形で再エネを生み出し、どんな場所・人に届けようとしているのか――。環境省の「先進性・モデル性の類型一覧」をもとに整理すると、その姿がより鮮明になります。

出典)環境省HP「先進性・モデル性についての類型一覧」より一部加筆・再構成して作成

なかでも注目なのは、大都市・中都市では見られなかった「全域」という類型の存在です。
米沢市・飯豊町と五島市がこの区分に入り、市町村域全体注1)を対象とした脱炭素化を目指すことになります。対象の広さゆえ、多様なステークホルダーを巻き込みながら、民生電力の脱炭素化に取り組むことが求められるでしょう。
再エネの導入に関して、やはり中心となるのは太陽光発電ですが、木質バイオマスや風力、水力など、地勢的な特性を生かした電源も比較的多く見られます。
さらに、取り組みを通してクレジット創出を見据える都市も複数あり、持続的な資金調達への意識もうかがえます。

注1)米沢市は東部4地区

2.地域電源を掘り起こし、暮らしに合うかたちで民生電力の脱炭素化を推進

「全域」タイプに分類された米沢市・飯豊町と五島市は、総需要電力量は異なるものの、需要構成は類似しており、事業所・店舗等が約4割、公共施設が約1割、残り5割が住宅という内訳です。
また、需要電力量全体に対する再エネ供給量等の計画も似通っており、自家消費が約1割、残りのほとんどを電力メニューで賄うという構造です。ただし、両地域とも再エネポテンシャル注2)が高く、総量的には、地域内の発電電力量で需要電力量を賄う(つまり、地域外からの電力移入を要しない)計画としていることは大きな特徴といえるでしょう。

注2)米沢市・飯豊町は畜産業・林業と連携したバイオガス発電や木質バイオマス発電、五島市は地勢的特性を生かした洋上風力や太陽光が、それぞれ電源として計画されています。

出典)環境省HP 各市計画提案書より作成

「特定行政区等の全域」としては、宮古市、久慈市、陸前高田市、東松島市、佐渡市、飯田市、瀬戸内市、うきは市、日置市、宮古島市の10地域が該当し、住宅・公共施設・事業所それぞれの電力需要の構成や、自家消費の割合などに特徴がみられます。
電力需要の構成としては、宮古市、久慈市、陸前高田市、東松島市及び飯田市の住宅割合が4~5割程度と相対的に高く、佐渡市、瀬戸内市、うきは市は公共施設の割合が高くなっています。瀬戸内市とうきは市は、市内の公共施設群も対象に含んでいること、佐渡市は公共施設を中心とした市内の“防災・観光・教育”関連施設群を対象としていることが背景にあると考えられます。

出典)環境省HP 各市計画提案書より作成

再エネ等の自家消費割合を見ると、佐渡市、飯田市及び宮古島市が5~6割程度と高いことが分かります。
佐渡市は公共施設を中心とした施設群を対象としており、各々に設置する屋根置き太陽光による自家消費増が見込まれています。飯田市は地区内の民生施設すべてに太陽光+蓄電池設置を目指すとともに、地区内の既設メガソーラーから一部の公共施設等に既存配電系統を利用したマイクログリッドを構築するとしていることが特徴的です。また宮古島市は、住宅太陽光はすでにオンサイトPPAの普及が進んでいるというアドバンテージがあり、今後はその他建物への屋根置き太陽光を急拡大していくとしています。
なお、佐渡市、うきは市、日置市、宮古島市は、電力メニューによる再エネ等供給の相当部分に相対契約による調達分を含んでおり、地産電源との連携を明確にする姿勢がうかがえます。

出典)環境省HP 各市計画提案書より作成

小都市先行地域で市街地(以下、街区)に類型された3市、住宅街・住宅団地(以下、居住区)に類型された2市注3)、産業団地/農林水産施設/港湾(以下、産業区)に類型された4市注4)、その他のみに類型された都市のうち、観光・レジャー(以下、観光・レジャー区)に関するのは3市注3)です。

  注3)甲斐市(類型=住宅街・住宅団地)は、ワイナリーを中心とした産業観光要素が強いため観光・レジャー区として整理

  注4)全域または特定行政区等の全域と重複する市を除く

これらの地域の需要電力量に対する再エネ供給割合を見ると、街区において自家消費率は低調である一方、居住区では自家消費率が高めであるなど、大都市や中都市と同様の傾向が見られます。
自家消費率が突出している石狩市では、既存の太陽光や洋上風力発電に加えて、新規立地企業の屋根置き太陽光やバイオマス発電所の設置予定などを含めて、エリア内の創エネルギー量の大きさが特徴です。同じく自家消費率の高い加西市は、“サステナブルタウン九会”を目指して、既存住宅200 戸を対象に断熱リフォーム、太陽光発電設備・蓄電池・V2H充放電設備の導入を見込んでいます。

注) 敦賀市:駅西地区シンボルロード等 小諸市:都市機能誘導区域(駅周辺) 高山市:旧町村役場周辺9市街地、小水力発電立地11町内会注) 匝瑳市:豊和・春海地区、飯倉地区、中央地区 加西市:九会北部宮木3町注) 石狩市:石狩湾新港地域REゾーン 米原市:ECOVILAGE構想関連施設(米原駅周辺民生施設群等) 淡路市:夢舞台サスティナブル・パーク周辺施設等 須崎市:農業エリア・農業関連施設群注) 釜石市:サステナブルツーリズム2拠点 日光市:奥日光全域 甲斐市:ワイナリー・公園・モデル事業取組ゾーン

出典)環境省HP 各市計画提案書より作成

以上の各都市の電力需給構造の特徴を踏まえながら、次項では各都市の特徴的な取り組みを見ていきましょう。

3.産業・観光・暮らしをつなぐ、小都市ならではの脱炭素地域づくり

米沢市・飯豊町は、“米沢牛サプライチェーン脱炭素化”を掲げています。飼料生産から飼育・出荷・加工製造・輸送販売・消費廃棄に至る各工程で発生する資源・エネルギーを最大限に循環活用するものです。こうしたスキームは、多様な関係者にもメリットが広がる可能性を秘めており、畜産業を通した脱炭素化地域づくりの一つのモデルケースとなる可能性があるのではないかと思います。
一方、うきは市では、観光や農業の振興エリアを中心に、果樹園の剪定枝をチップ化し、ボイラー燃料利用する計画ですが、それぞれを“働く場づくりエリア”、“住まいの提供エリア”で担うという、エリアごとに役割分担した地域像を描いています。

出典)環境省HP 米沢市計画提案書         出典)環境省HP うきは市計画提案書

このような、エリアごとの役割分担によって地域像を描いていく取り組みは、米原市や釜石市でも見られます。特に米原市では、“ECOVILAGE構想”と題した取り組みの中で、耕作放棄地となっているエリアに太陽光発電、環境配慮型グリーンハウスを段階的に導入し、エネルギー・雇用・地域産品を駅周辺の中心市街地へ届ける構想で、地域の結びつきを強めるものといえます。

    出典)環境省HP 米原市計画提案書    出典)環境省HP 甲斐市計画提案書より加工して作成

観光の観点でいえば、うきは市では観光・産業振興エリアで“スイーツツーリズムロード”が挙がっていますが、甲斐市でも特産品のワインを軸にした取り組みが計画されています。各地のワイナリーゾーンや公園ゾーン、農産物販売所などのゾーンを“ゼロカーボンロード”でつなぎ、果樹剪定枝の燃料利用や土壌炭素貯留などにも挑戦することで、観光と地域経済循環の継続的な発展を目指しています。

海の都市に目を向ければ、瀬戸内市でカキ養殖廃棄筏を木質バイオマス燃料として利用したり、陸前高田市で太陽光パネル付き自動給餌機を設置した新たな養殖システムを大規模導入(漁船燃料削減)したりといった取り組みが計画されています。特に瀬戸内市では、耕作放棄地から発生する雑木と併せて活用(チップ化・熱利用)することで、農業と漁業をつないで資源とお金が回る構想が描かれています。

出典)環境省HP 瀬戸内市計画提案書

陸前高田市では、市街地の被災跡地での果樹栽培に最適化した営農強化型ソーラーシェアリングの大規模導入も計画されていますが、倉吉市や匝瑳市でも営農型ソーラーシェアリング導入が計画されています。特に匝瑳市では、甲斐市と同様、地域のバイオマスである植木剪定枝や放置竹林等を炭化して(バイオ炭)、ソーラーシェアリングの農地へ導入するとしているのが特徴的です。注4)

注4)甲斐市では果樹剪定枝を炭化

 

出典)環境省HP 陸前高田市計画提案書        出典)環境省HP 匝瑳市計画提案書

4.災害時も安心できる、エネルギーを分かち合うまちへ

まちの中心部と周辺部とでエネルギーを分かち合うことで、まち全体の強靭化を図る取り組みもあります。
久慈市では、市役所及び各支所に交換式バッテリーを搭載したEVを配置し、災害時にはエネルギーポテンシャルの高い旧山形村地域を再エネ供給拠点とし、市役所及び各市民センターに電力を供給する仕組みを示しています。
東松島市でも、EVを分散型電源として活かす公民連携の“野蒜エネルギーconnection”を構築し、災害時には中核避難所と各避難所、宿泊施設等とを結ぶ計画です。

出典)環境省HP 久慈市計画提案書         出典)環境省HP 東松島市計画提案書

また佐渡市では、市内各地区の庁舎を中心に、防災・教育・観光の各関連施設の自家消費を向上させ、さらに全体をEMSで一元管理する計画をしています。
さらに飯田市は、既存メガソーラーと公的施設とを結ぶ配電系統活用のマイクログリッドで災害対応力を高め、さらに地区内全民間施設に屋根置きPPA太陽光を設置して地区住民参加によるDRも行うなど、地域に根付いた地区組織の存在が光る計画であることが想像されます。

出典)環境省HP 佐渡市計画提案書           出典)環境省HP 飯田市計画提案書

5.コンパクトで強い中心市街地の形成

小諸市は、駅周辺の“都市機能誘導区域”を先行地域とし、同域での再エネ自家消費やDR、集合住宅のZEH改修などを組み合わせながら、エネルギー利用高度化によるコンパクトシティの実現を目指しています。特に中心部の市庁舎周辺施設を自営線でつなぐマイクログリッドは、防災の観点からも都市の強靭化につながる取り組みといえるでしょう。
加西市においても、中心部のスマートグリッドの導入などによって、九会北部宮木3町をサステナブルタウンとして活性化させることを目指しています。

出典)環境省HP 小諸市計画提案書        出典)環境省HP 加西市計画提案書

こうした取り組みを進めるために、小諸市では専門機関の技術支援を受けながら市が主体となって実施体制を組み、加西市では市・地銀・メーカーなどが共同で地域エネルギー会社を新設する計画を示しています。
同様に敦賀市でも、駅西地区のシンボルロードを中心に、卒FIT家庭太陽光や新規ごみ発電などの電力需給を、市・電力会社・地銀のチームでマネジメントしていく計画としています。まずは先行地域内のエネマネを通した脱炭素化を進め、いずれは中心市街地全体への波及拡大を行う構想が示されています。

出典)環境省HP 敦賀市計画提案書

そのほか、湖南市では福祉施設に焦点を置き、地域全体で福祉の現場を支える仕組みづくりの基盤として、地域の電力会社と脱炭素貢献のための特別目的会社による再エネ設備導入支援スキームを構築しています。
どのような観点に着目し、どのようなプレイヤーと共にまちづくりにアプローチしていくか、今後ますます重要な視点といえそうです。

6.資源とエネルギーの流れを見渡し、市域全体を脱炭素へ

ここまで見てきたように、産業、観光、防災、まちづくりといった各都市の取り組みには、“地域につながりをつくる”という共通点が見てきます。多様な関係者と協力しながら、様々な主体間あるいは地域間での円滑な循環をデザインするために、地域資源やエネルギーの流れを俯瞰して見ていくことが大きな鍵になっています。
たとえば宮古市では、将来的に内陸部を含めた市全体の小規模分散電力網の構築を見据え、“地域の相互補完”で市全体の課題解決を目指しています。面積が広く多様な地域を抱える自治体ならではの発想といえるでしょう。

 

出典)環境省HP 宮古市計画提案書

こうした市域全体のエネルギー管理には、相応の管理体制が必要であり、加西市などでは複数主体による地域エネルギー会社の活用などが見られました。
五島市では、“地域アグリゲータ”を中心に、再エネ・非化石価値から資金の流れまで最適化を目指す構想が示されています。九州本島と海底ケーブル一系統で接続される系統末端部であることによる系統制約が厳しい地域ならではの課題に向き合っているものと思います。

 

出典)環境省HP 五島市計画提案書

大都市や中都市ほどの複雑さはないものの、小都市の脱炭素化も、地域課題と向き合いながら進める戦略が欠かせません。人口減少や過疎化に悩む地域ほど、地域資源をうまく活かしながら、資源・エネルギーの流れを全域で最適化する視点が必要になります。
いわば“虫の目(地域ごとの視点)”と“鳥の目(全体を俯瞰する視点)”を行き来しながら、地域に合った脱炭素化を進めていくことが、小都市の未来を形づくる鍵になるのではないでしょうか。

先行地域を通した小都市における脱炭素社会のイメージ(例)

参照(2025.11)

環境省
脱炭素先行地域 先進性・モデル性についての類型
https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/#senshinseimodelsei
脱炭素先行地域 選定結果/各市区町村の計画提案書https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/#regions