町村先行地域にみる脱炭素への挑戦

地域資源と“つながり”を生かした、町村ならではの脱炭素のかたち ―

全国的に人口減少が進むなか、特に町村部でその影響は大きく、2025年には1,000万人を下回るまでになっています。近年では「消滅可能性自治体」といった言葉も耳にするようになり、住民の高齢化と相まって、地域社会を維持していくことの難しさは年々増しています。

出典)総務省HP 住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数(令和7年1月1日現在)https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/jinkou_jinkoudoutai-setaisuu.html

しかしこうした状況のなかで、各町村がそれぞれの立場で、地域の将来に向けた模索を続けていることも、読者の皆様はご承知のところではないでしょうか。
環境省の「脱炭素先行地域(以下、先行地域)」では、カーボンニュートラルの実現そのものに加え、脱炭素の取り組みを通じて地域が抱える課題の解決につなげていくことが重視されています。町村においては、人口減少や少子高齢化、さらには地勢や自然条件といった制約も踏まえながら計画を描く必要があります。先行地域に応募した町村では、そうした諸条件を前提に、自らの地域に合った戦略を丁寧に練り上げ、実践へとつなげています。
本稿では町村の先行地域に焦点を当て、地域の課題や条件を踏まえながら、どのように脱炭素型の地域づくりが進められようとしているのかを見ていきたいと思います。

(参考)先行地域の区分別件数

都市区分件数
大都市(政令市)14件
中都市(人口10万人以上。政令市除く)22件
小都市(人口10万人未満。町村除く)27件
町 村22件
都道府県(市町と共同提案)2件

(本稿作成時点)

1.自然条件・地勢条件を踏まえた町村の脱炭素戦略

町村先行地域22件の取り組みタイトルを眺めてみると、「風」や「水」といった自然資源、「豪雪」や「山間」といった地域特有の自然条件を示すキーワードに目を引かれます。町村ならではの実効性ある取り組みを進めるうえでは、こうした地域資源や条件をどう活かすかが重要な視点であることがうかがえます。
また、「再エネフルメニュー」「全村!全力!全活用」「むらまるごと脱炭素」といった町村全体で取り組む姿勢を前面に出した表現も注目されます。財政面や人材面で規模の小さい町村では、脱炭素を数ある政策の一つとして位置づけるのではなく、町村政策の中核に据えて進めていこうという姿勢が表れているように感じられます。

出典)環境省HP 各先行地域の計画提案書より作成

では、こうした町村が、地域条件を踏まえながら、どのように再生可能エネルギーを生み出し、誰に、どこへ届けようとしているのでしょうか――。環境省の「先進性・モデル性の類型一覧」をもとに整理すると、その特徴がより明確になります。

出典)環境省HP「先進性・モデル性についての類型一覧」より一部加筆・再構成して作成

特に目を引くのが、全9件に上る「全域」を対象とした取り組みです。
厚沢部町、奥尻町、上士幌町、佐井村、上野村、池田町、生坂村、北川村、黒潮町の9件では、町村全体の民生部門を対象に脱炭素化を進める計画が掲げられており、多様なステークホルダーと連携しながら取り組みを進めていくことが想定されます。
再エネの導入については、太陽光発電を軸にしつつ、木質バイオマスや風力、水力など、地勢や自然条件を活かした電源が多く取り入れられています。あわせて、木質バイオマスや地熱など、熱利用に新たに取り組む町村が多いことも特徴的といえます。

「全域」タイプに分類された9町村の電力需給に係る計画を見てみると、多くの町村で、再エネの自家消費が約1~3割、電力メニューによる再エネ等供給(一部相対契約含む)が6~9割、省エネ計画量が1~2割程度となっています。
一方、上野村と生坂村では再エネ自家消費量の割合が高くなっています。上野村では、太陽光発電と蓄電池を村営住宅、民間施設及び公共施設のすべてに導入し、民間の戸建住宅にも約半数の導入を目指す計画としています。生坂村では、民生部門の全電力需要家を対象に、オンサイトPPAにより太陽光発電設備と蓄電池を最大限設置しつつ、屋根や敷地が利用できない需要家には遊休地等を利用したオフサイトPPAにより電力供給を行うとしています。いずれも、民生部門のほとんどに自家発電機能を導入しようとするもので、比較的規模の小さな地域特性を踏まえつつ、系統制約などに応じた一つの脱炭素地域の姿といえるのではないかと思います。

出典)環境省HP 各市計画提案書より作成

「特定行政区等の全域」としては、紫波町、邑南町、球磨村、あさぎり町の4地域が該当します。
再エネ等の自家消費割合を見ると、全体で1~4割程度、電力メニューによる再エネ等供給割合は、5~9割程度となっています。

出典)環境省HP 各市計画提案書より作成

2.地域のなりわいを活かした地産資源の最大活用

多くの町村では農林水産業が主要産業であり、そこから生まれる地域資源をいかにエネルギーとして活用するかが、脱炭素化の大きなポイントとなります。
町村先行地域においても、林業、農業、畜産業などから生じるさまざまなバイオマス資源を計画に取り入れる動きが見られます。

上野村では、森林資源の最大活用や再エネの地産地活と域内経済循環の向上のためにペレット生産を拡大し、安定した再エネ原材料の供給を目指しています。ペレットに加えて広葉樹のチップ燃料利用も進め、木質バイオマス熱電供給施設の新設を通じて、林業とエネルギー利用を結びつける体制づくりを進めています。

出典)環境省HP 上野村計画提案書

農業分野では、大潟村のもみ殻活用の取り組みが注目されます。水田から発生するもみ殻を原料としたバイオマス熱電供給施設を整備し、燃焼後のもみ殻はバイオ炭としてのうちに還元する計画で、地域資源を無駄なく循環させる仕組みが期待されます。

出典)環境省HP 大潟村計画提案書

畜産分野では、鹿追町の取り組みが注目されます。家畜糞尿を原料としたバイオガスプラントを中心に、町内への電気・熱・水素の供給と、消化液を農地へ返す資源循環型農業を行うことで、バイオガスからの多様な資源エネルギー循環を実現する「地域資源循環型社会」を構築するとしています。

出典)環境省HP 鹿追町計画提案書

また、畜産業と農業の連携により、再エネ供給とCOの農地貯留を進める例もあります。あさぎり町では、農業側のソーラーシェアリングや牛舎等への太陽光発電設置によって生み出した再エネ電力を農業関連施設に供給するとともに、家畜糞尿をバイオ炭混入堆肥として農業へ供給するなど、農業・畜産業全体の向上と生産・加工段階の脱炭素化を図るとしています。

出典)環境省HP あさぎり町計画提案書

その他、生ごみや浄化槽汚泥などの生活系バイオマスについても、重要なエネルギー資源として活用されています。紫波町では、生ごみ・廃果実・浄化槽汚泥等を原料としたメタン化バイオガス発電と消化液の農地還元を進めるとしています。

メタン発酵バイオガス発電設備
出典)環境省HP 紫波町計画提案書

3.再エネ発電電力を地域のなかで大事に使う

町村地域は人口密度が低いことから、発電した再エネ電力が地域内需要を上回ることも珍しくありません。特に太陽光発電の場合、昼間の時間帯は需給バランスの偏りが課題となります。
邑南町では、予め大型蓄電池に充電した再エネ余剰電力を地域への再エネメニュー電力として供給することにより、地域の再エネ電力を無駄なく地産地消することを目指しています。

出典)環境省HP 邑南町計画提案書

また、町村地域には、いくつもの集落が点在するケースも多いため、例えば災害時などの電力供給などが大きな課題となります。
上野村では、災害時停電ゼロの実現を目指し、集落ごとに地域マイクログリッドを構築する事業を進めています。まずは2030 年度までにマスタープラン策定済みの計画区域への展開を目指し、その後は、可能な限り全村に地域マイクログリッドを展開することで、再エネ導入拡大を基盤とした、オフグリッドでも自立して電力供給できる送配電網の構築を目指すとしています。

出典)環境省HP 上野村計画提案書

一方、比較的大きな中心部を有する町村では、中心部で比較的規模の大きいマイクログリッドを整備する動きもあります。生坂村では、役場や小中学校を中心とする公共施設、農産物加工施設等民間施設などを自営線でつなぎ、各施設の太陽光発電や、需給調整用蓄電池、小水力発電を電源としたマイクログリッドを構築・マネジメントすることで、非常時だけでなく平常時も電力の需給調整を行うとしています。

出典)環境省HP 生坂村計画提案書

4.地域課題に向けたさまざまな“つながり”のかたち

人口減少や少子高齢化といった課題に対し、町村先行地域では、住民同士あるいは住民と行政等との“つながり”を大切にしながら、脱炭素につなげる工夫が見られます。

佐井村では、簡単な操作で多くの情報を受配信できるタブレット情報端末を全世帯に配備し、各世帯を光ファイバーケーブルでつなぐ村内ネットワークシステム(さいボード)を整備しており、この仕組みを活用して、再エネ導入家庭への利用量に応じたポイント付与を行うとしています。

出典)環境省HP 佐井村計画提案書

また黒潮町では、南海トラフ地震への備えとして、避難行動が困難な住民への個別避難計画、避難支援を行うため、全住民の避難行動調査に基づく「戸別津波避難カルテ」を作成した実績があります。先行地域の取り組みではその実績を応用し、町内全戸訪問を通じて「脱炭素カルテ」を作成し、町民全体の意識改革・行動変容を促すとしています。

出典)高知県HP 脱炭素スタートサイト
https://cn-portal.pref.kochi.lg.jp/partner_interview/9093

上士幌町では、買い物困難者に対応するため、全国で初めて2021年度に個宅へのドローン配送実証を行った実績があります。これを踏まえて先行地域では、町内の人流・物流の効率化と脱炭素を両立させる取り組みが計画されています。具体的には、ドローン配送等の複数の手法を組み合わせたサービス提供の可能性検討、事業化に向けた検証を行うとともに、ドローン配送の拠点となる「ドローンデポ」と個宅を効率的に結ぶラストワンマイル配送の実現を目指すとしています。

出典)環境省HP 上士幌町計画提案書

地域の課題は人口減少や少子高齢化に起因するものにとどまらず、厳しい自然条件に起因するものもあります。全町が特別豪雪地帯に指定されている池田町では、利雪・融雪・克雪をキーワードに、関係者が集う研究会を設け、雪国における脱炭素政策のベストミックスを模索しています。特屋根雪下ろし作業の軽減の観点から有効と判断された融雪型太陽光の導入を進めるとされています。
また関川村でも、豪雪への対応として壁面太陽光、超軽量CIGS 太陽電池の導入が計画されています。

出典)環境省HP 池田町計画提案書

5.町村連携による広域観光周遊と経済循環

これまで見てきたように、“つながり”の重要性は、行政と住民、あるいは住民同士といった関係にとどまりません。町村同志が連携し、広いエリアで取り組みを進めていくことも、脱炭素を進めるうえで大きなポイントになりそうです。
度会町では、年間600万人が来訪する大型商業リゾート「VISON(ヴィソン)」(多気町)の開業を機に、周辺5町(多気町、明和町、大台町、紀北町、大紀町)と連携し、各町のさまざまな場所を巡る周遊観光の促進に取り組んでいます。特にこの6町では、温室効果ガス排出量のうち運輸部門が占める割合が比較的高いことから、6町ですでに導入されているEVを活用した、広域観光周遊を実現するEVシェアリングを行い、週末のEVシェアリング導入により地域で目指す広域観光の実現を図るとしています。

出典)環境省HP 度会町計画提案書

取り組みにあたっては、6町と民間企業等が出資して地域新電力会社を設立し、電気小売に加えてPPA事業やZEB・ZEH改修などにも取り組むことで、ノウハウの共有や、共同調達によるコスト縮減を図る計画です。また、多気町、度会町が整備する発電施設へ地域資源(未利用材チップ、食品残渣)を提供するなど6町での資源循環を進め、広域連携によって脱炭素を実現するモデルの構築を目指すとしています。
また、すでに6町を中心に複数の民間企業同士が連携して地域事業を推進している一般社団法人三重広域DXプラットフォームが、地域一体で実施する事業の担い手や受け皿となることで、デジタル地域通貨やデータ連携基盤を活用した地域住民や企業へのインセンティブ付与等を行うなど、地域内に必要な人材や資金を供給しやすい環境を構築するとしています。

出典)環境省HP 度会町計画提案書

6.脱炭素で得られた“地域のよさ”で、持続可能な町村へ

町村先行地域の計画提案書を一つひとつ見ていくと、全体を通して共通する取り組みの方向性が浮かび上がってきます。
まず、エネルギーの創出に関しては、農地でのソーラーシェアリングに加え、山林や農地から得られる木質資源、稲作由来のもみ殻、廃果実、さらには生活系の生ごみや浄化槽汚泥など、地域に身近な資源を活用したバイオマスエネルギーの利用です。
エネルギーを地域に届ける役割を担う地域電力会社は、電力の地産地消や地域経済循環を支えるだけでなく、エネルギーマネジメントの中核として、大型蓄電池の運用やZEH・ZEBといった関連設備への対応も担うことです。
エネルギーを使う街地や集落では、各戸や各施設で省エネ(ZEH・ZEBなど)を進めながら、分散電源としての太陽光発電設備をPPAにより整備する取り組みです。また人口が比較的集まるエリアでは、防災の観点も踏まえ、発電設備と重点施設をマイクログリッドでつなぐ構想が描かれていることです。
そしてこうした取り組み全体を、行政や地域電力会社を含む地域事業会社、さらにはデジタルプラットフォームなどが俯瞰的に支え、取り組みを後押ししていることです。
これらの取り組みを一つひとつ着実に進めていくことで、町村における脱炭素型の生活基盤は少しずつ整っていくものと考えられます。そして、その過程で生まれる「暮らしやすさ」や「地域ならではのよさ」を、周辺の町村とも連携しながら広く共有していくことが、町村が直面する持続可能性という課題への対応にもつながっていくのではないかと思われます。

町村先行地域における脱炭素社会形成のイメージ(例)

参照(2026.1)
環境省
脱炭素先行地域 先進性・モデル性についての類型
https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/#senshinseimodelsei
脱炭素先行地域 選定結果/各市区町村の計画提案書https://policies.env.go.jp/policy/roadmap/preceding-region/#regions