COP30とその後 ―グローバル循環プロトコルが描く循環経済の未来―

2025年11月10日から22日にかけて、ブラジル・ベレンで国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)が開催されました。多くの報道でも触れられているとおり、化石燃料廃止に向けた道筋について最終的に合意が得られず、文書に盛り込まれなかったことは残念ですが、一方で20項目以上の承認事項を含む「ベレン・ポリティカル・パッケージ」が採択され、とりわけ“損害と損失” 基金への拠出をはじめとする資金メカニズムの進展など、これまでの議論を実現に近づける動きも見られました。

こうした中、環境省の報道発表資料によると、石原宏高環境大臣は閣僚級ステートメントとして次の点を発信しています。
✔日本は1.5度目標に整合的な新たなNDCを提出し、2050年にネット・ゼロを目指す揺るぎない決意を持っていること
✔多国間主義に基づき世界全体で脱炭素の取組を進めることの重要性
✔全ての国が、野心高いNDCを早期に提出し、実施にも取り組み、パリ協定の野心向上サイクルを回していくことの重要性
✔JCM等を通じて、着実に歩みを進めていること
✔日本の民間企業とともにWBCSDによる企業の循環性情報開示のフレームワークである「グローバル循環プロトコル」の開発に積極的に貢献していること

本稿では、最後に挙げられた「グローバル循環プロトコル」の開発に焦点を当てて、資源循環の観点からどのような動きが進んでいるのかを見ていきたいと思います。

1.産官学の総力で進むグローバル循環プロトコル(GCP)の構築

グローバル循環プロトコル(以下、GCP)とは、循環性に関する企業情報開示スキーム(Global Circularity Protocol)のことで、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)において、委員会やWGを立ち上げて開発が進められているフレームワークです。
現在、この開発には、世界から多くの組織・企業・専門家が参画しており、日本からは、WBCSDの会員企業数社が参画しています。

出典)内閣府HP サーキュラーエコノミーシステムの構築推進委員会 環境省資料

先のCOP30では、WBCSDなどが開催したサイドイベントにおいて、GCPの初版となる「GCP v1.0」が発表されました。
その内容を見ると、循環性の評価として企業の取り組みを促進する枠組みや指標を定めること、また情報開示に向けたフレームワークやバウンダリーを整理していくことが示されています。こうした基本フレームが示されれば、各企業は対応に向けた準備を進め、自らの事業活動において指標を測定・管理・開示しながら、“PDCA”を回していくイメージが考えられているようです。

出典)環境省HP 報道発表資料

こうした国際的な動きに対応するため、環境省では、「バリューチェーン循環性指標及び企業情報開示スキーム等の国際標準化(内閣府BRIDGE事業)」を2024年度から開始し、同11月には、各論点を検討する2つの検討会を立ち上げました。これらの検討会では、企業レベルの循環性の情報開示に係る重要な論点をとりまとめ、今後のGCPの開発にも貢献していくこととされています。
なお、バリューチェーン循環性指標の検討対象としては、鉄・アルミ・銅・プラスチックといった素材分野に加えて、自動車・タイヤ・電機・繊維、さらには建設の分野が指定されています。今後の検討を通じて、2026年度までにバリューチェーンの循環性指標を開発することが目指されています。

出典)環境省HP 報道発表資料

2.循環性指標で「入口→製品→出口」を総合的に捉える

GCPの検討は、「どのような指標をモニタリングするのか」と「それをどのように開示するのか」という二つの視点を軸に進められています。
まずモニタリングすべき指標については、企業の測定・開示のしやすさも考慮しながら、既存の関連指標が検討のベースになるのではないかと考えられます。
たとえば国レベルの指標では、EUの循環型経済のための監視枠組み(SWD(2023)306)があり、わが国にも循環型社会形成推進基本法に基づく循環型社会形成推進基本計画(以下、循環計画)に掲げられた指標があります。

国レベルでのモニタリング指標(例)
出典)図中の注)に記載の資料を参照して作成

両指標を見てみると、一人当たりの天然資源消費量(マテリアルフットプリント)や資源生産性、資源導入量に対する循環資源の割合や、製品廃棄量に対する循環利用の割合など、類似した指標が多く設定されています。一方で、EUでは品目別の廃棄物排出量を掲げているのに対し、循環計画では最終処分量を取り上げている、といった違いも見られます。
企業レベルの指標では、EUのCSRD(企業の持続可能性報告指令)に基づくESRS(欧州サステナビリティ報告基準)や、ISO 59020(循環性パフォーマンスの測定と評価)、さらにWBCSDが策定するCTI(Circular Transition Index)v4などがあります。

企業レベルでのモニタリング指標(例)
出典)環境省 再資源化事業等の高度化に関する認定基準検討ワーキンググループ第1回参考資料2を参考に作成 

これらの基準における物質フロー関連の指標を見てみると、資源投入から製品・サービス、そして廃棄・リサイクルに至るまで、各段階に対応した指標が設けられていることが分かります。中でも、①製品への投入資源全体に対する循環資源の利用率、②製品寿命、③使用済み製品の排出量に対する再生利用率の3点は、各基準で共通して重視されています。
一方、EUのESRSでは、製品の循環設計や修理可能な程度、リサイクル可能な物質の比率といった製品そのものに関する項目や、廃棄物管理や発生量の把握など廃棄物に関する項目が充実しており、ISO59020やWBSCD CTIと異なる特徴を持っています。ここには、国レベルの監視枠組みであるSWD(2023)306との連動性もうかがえます。
また、WBSCDのCTIでは、インフローとアウトフローを総合した「マテリアルサーキュラリティ率」といった総合指標を設定している点も特徴的です。

GCPの指標検討では、こうした製品そのものや、インフロー・アウトフローに関する主要指標、さらには総合指標を踏まえて、企業レベルでの開示可能性や開示手法を検討しながら議論が進められていくのではないかと思われます。

3.循環経済と温室効果ガス削減を「両輪」で進めるために

循環性に関する各種指標の実績開示スキーム(とりわけサプライチェーン全体を対象とした開示の仕組み)を構築していくに当たっては、関係企業が情報交換・意見交換を行い、一定の合意に向けて議論を進めていくことが必要です。
環境省では、前項1.で触れたように「資源循環に関する企業レベルの情報開示スキームの開発に係る検討会」において、関係の有識者や金融機関、製造業等の参加を得て議論を進めていますが、その背景的基盤のひとつともいえる「循環経済パートナーシップ(J4CE)」という枠組みが2021年から実施されています。
J4CEでは、循環経済に関して注目される取組事例を事例集としてまとめているほか、参加企業等による対話や情報共有といったネットワークづくりが進められています。

出典)内閣府HP サーキュラーエコノミーシステムの構築推進委員会 環境省資料 

また、経済産業省においても、サーキュラーエコノミーに野心的・先駆的に取り組む産官学の有機的連携を促進するため、サーキュラーパートナーズ(CPs)という枠組みを設け、4つのワーキンググループを通して中長期的ロードマップの作成や情報流通プラットフォームの立ち上げを目指しています。
さらに民間の企業・団体を中心としたCMP(Chemical and Circular Management Platform)タスクフォースも形成されており、製品含有化学物質から資源循環に至るまで、ライフサイクル全体を通じた物質循環情報を伝達するシステムについて検討が進められています。

出典)内閣府HP サーキュラーエコノミーシステムの構築推進委員会 経済産業省資料 

こうした様々な枠組みでの産官学の議論を通して形成される情報開示スキームは、最終的には温室効果ガス排出量情報開示の考え方とも結びついて、より総合的に評価することが求められてくるのではないでしょうか。

出典)内閣府HP サーキュラーエコノミーシステムの構築推進委員会 環境省資料

環境省及び経済産業省では、企業単体レベルの排出量測定に加えて、上流・下流を含めたサプライチェーン全体の排出量算定の考え方をガイドラインとして示し、業界としての取り組みを後押ししています。
こうした動きが着実に積み重なることで、将来的には、資源循環と温室効果ガス削減が環境指標の「両輪」として適切に評価される時代が訪れることが期待されます。

参照(2025.12)

内閣府
サーキュラーエコノミーシステムの構築推進委員会https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/iinkai3/economysystem.html

環境省
報道発表(グローバル循環プロトコル(GCP)の初版公表)https://www.env.go.jp/press/press_01698.html
報道発表(COP30開催)
https://www.env.go.jp/press/press_01793.html
循環型社会形成推進基本計画
https://www.env.go.jp/recycle/circul/keikaku.html
再資源化事業等の高度化に関する認定基準検討ワーキンググループ
https://www.env.go.jp/page_01603.html

EU
循環型経済のための監視枠組み(SWD(2023)306)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:52023DC0306
ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=OJ:L_202302772